葬儀・終活コラム
野辺送り とは?現代ではあまり見られなくなった葬列の風習について解説
野辺送り とは、葬儀における儀式のひとつで、古くは葬儀が終わった後に故人を埋葬する場所まで、あるいは火葬場まで送ることを指しました。葬儀場となる自宅やお寺から土葬墓地や火葬場まで続く弔いの列は、葬列と呼ばれたものです。現代ではあまり見かけることのない 野辺送り について、意味合いや風習の内容を解説します。
【もくじ】
野辺送り とは、葬儀における儀式のひとつで、古くは葬儀が終わった後に故人を埋葬する場所まで、あるいは火葬場まで送ることを指しました。葬儀場となる自宅やお寺から土葬墓地や火葬場まで続く弔いの列は、葬列と呼ばれたものです。現代ではあまり見かけることのない 野辺送りについて、意味合いや風習の内容を解説します。
野辺送り とは故人を埋葬地や火葬場まで送る儀式
野辺送りとは、葬儀の儀式が終了した後に、埋葬する墓地や火葬場まで故人を送ってゆくことを指します。葬儀の一切を葬儀社に依頼し、霊柩車で棺を火葬場まで送るのが当たり前となった今では、なかなか見られることはありません。
野辺送りは、かつて見送りを行う近親者にとって「最も大事な儀式」と言う人もいるほど重要視されていました。読経を行う葬儀の間は僧侶がその場を取り仕切りますが、野辺の送りについては、親族の代表者や近隣の人々が地域の風習に則って故人を送ることになります。遺体の扱いを間違うと死者の穢れが近くの人に移ると信じられていた時代においては、しきたり通りに野辺の送りを行うことが、送る側の大きな仕事だったのです。
よって、野辺送りが珍しくなった現代においても、その風習やしきたりは地域の葬儀に深く根付いています。出棺時や出棺の後に「どうしてそんなことをするのだろう?」と不思議に思うようなことを、親族や近所の人がやるかもしれません。遺影や位牌を持つ役や、葬儀場を出る順番が決まっていることを不思議に思う人もいるでしょう。それは、野辺送りがあった頃の名残なのです。
野辺送りの風習内容
野辺送りでは、棺を中心として以下のような葬列を組みます。順番や道具は、地域によって違う場合があります。
・先頭にたいまつや提灯
先頭に明かりを置くことで、野辺送りが行われていることを周囲に知らせ、また死者の魂を導きます。
・旗
近隣の人が、つねにその地区の野辺送りで使っている旗を持ちます。
・かご
造花をつけた竹かごの中に、小銭やお菓子を紙で包んだおひねりを入れ、かごからおひねりを撒きながら歩きます。集まった近所の人たちがおひねりを拾い、持ち帰ります。
・シカ
白い紙で作ったレンゲの花をシカ(四華、死華)といい、親族の中でも血縁の濃い人が持ちます。
・香炉
親族の中でも血縁の濃い人が持ちます。
・枕飯
箸を建てた一膳飯を、喪主の配偶者など遺族や遺族に近い間柄の女性が持ちます。
・導師
棺の前に僧侶が立ちます。
・輿
の入った輿を、甥っ子や孫など、近親者の男性が持ちます。
・位牌
喪主が持ちます。
・遺影
喪主の兄弟など、近親者が持ちます。
・天蓋
お寺などにある仏像の頭上にかざされた、笠状の装飾具が天蓋です。この天蓋を模した道具を、近親者が持ちます。本家の当主など、親族の代表格が持つとされる地域もあります。天蓋は、魔除けとされます。
以上のように、棺が納められた輿に近くなるほど、血縁の濃い人が並ぶことになります。物を持つ役ではない親族や近隣者は、棺の後を歩いたり、棺の前に「善の綱」と呼ばれる細長い白布を伸ばし、それを引いて先導したりします。
野辺送り のしきたりの一部は今でも残る
前項で紹介したような、本格的な野辺送りを体験したことのある人は、現代では少なくなってきています。しかし、しきたりの一部はさまざまな形で葬儀の場に名残を残しています。一例をご紹介しましょう。
・金色の屋根がついた霊柩車
屋根の部分は、野辺送りで使われる輿を模しています。
・葬儀で使われる白木の祭壇
祭壇上には、輿を模した屋根飾りや、葬儀の先頭に使われる提灯を模した灯籠飾り、一膳飯、団子や落雁などのお供え物、遺影、位牌が載っています。かつて、葬儀で使われる祭壇は、後に野辺送りで使うための道具を飾る台という意味も持ち合わせていました。
・出棺時に血縁者が棺を持つ
葬儀社の社員だけでなく、血縁者が棺に手を携えて霊柩車へ向かいます。とくに故人の甥が棺を持つよう促される地域もあります。
・位牌や遺影を持つ役を指定される
「位牌は喪主が、遺影は故人の配偶者が持つ」など、出棺前にあらかじめ葬祭品を持つ役を指定されることがあります。一膳飯やお団子などを持つ役まで細かく決める地域も、未だあります。
・出棺時に家を出る順番を指定される
「喪主が位牌を持って最初に家を出るように」「血縁の薄い人はなるべく後から家を出る」などと、親族の代表格や近隣の代表者に指示されることがあります。
・出棺時に棺を三回回す
死者が家へ戻ってこられないよう、どこかのタイミングで方角を分からなくするために棺を回していました。この風習が残っている地域があります。
・出棺は玄関ではなく縁側から出る
死者には家の玄関を使わせないという考え方から、棺を縁側から出す風習があります。
・出棺時に仮門をつくる
竹をコの字型に組むなどして簡単な門を作り、棺が家を出てからその仮門をくぐらせます。その後、仮門は燃やしてしまいます。こうして、死者の魂が家に戻ってこられないようにします。
・家から出て最初の曲がり角に棒を立てる
かつては竹など木の棒の先にロウソクをつけて火をともし、家から墓地まで道の曲がり角に立てていました。これを「辻ロウ」といいます。今でも、家から出て最初の曲がり角だけに棒を立てておく風習が見られます。
・出棺後、棺の置いてあった部屋をほうきで掃く
ほうきで掃き出すことで、死者の穢れを払います。掃いた後のゴミは、掃き出し窓などを利用してなるべく外へ出してしまいます。
葬儀のなかに 野辺送り の名残を見つけよう
野辺送りのしきたりは、とくに土葬から火葬への切り替えが遅かった地域で色濃く残っています。葬儀に参列する際、ここで紹介したようなしきたりに従うよう促される場合があるかもしれません。野辺送りの頃から連綿と続いている風習であることを理解しておけば、うろたえることはないでしょう。
参考:『民俗小辞典 死と葬送』吉川弘文館